賃貸住宅に住み始めるとき、礼金や家賃と一緒に敷金を支払いませんでしたか?この敷金というのは退去時などに使用されるかもしれないお金です。退去時には原状回復が求められますが、原状回復のために必要な修繕費用がこの敷金から差し引かれます。
しかし実は敷金からお金を差し引かれる必要はなかったというケースもあります。原状回復や経年劣化などについて知っておくことでこのような事態を防ぐことができます。ここでは原状回復や経年劣化、通常損耗などについて紹介していきます。
そもそも経年劣化ってなに?
長年使用している壁紙や畳、襖などが少しずつ色あせていくのはイメージできるでしょうか?部屋を常に清潔に保っていたとしてもこれらは自然と色あせ、弱くなっていきます。乱暴に使っていたわけではなく、むしろ使っていない場合であっても自然に傷んでいくのです。このようになにもしていなくても自然に古くなり劣化していくことを「経年劣化」といいます。
経年劣化していくのは壁紙や畳、襖だけではありません。ドアなども経年劣化していきます。部屋の湿度などにより木材が傷んでいき、ネジや釘は錆びていきます。錆びによって動きが悪くなったり開閉する際に音が鳴るようになったりすることもあります。
また部屋に差し込む日光によっても経年劣化は進みます。日光によりフローリングや畳や壁は色あせていきます。部屋に日光を差し込ませないようにしたり部屋から湿気を完全になくしたりすることは難しいです。経年劣化は防ぎようがないものです。
通常損耗とはどう違う?
暮らしていく中で、ものは自然に劣化します。このような経年劣化とは別に、通常損耗というものもあります。こちらは経年劣化と似ているようで少し異なります。
通常消耗とは、住んでいる人がわざと傷つけたわけではないのに損耗してしまうことを指します。たとえば、お部屋を使用することで畳が変色してしまったり、フローリングに傷がつき色あせてしまったりといったことは、故意ではなくても起こってしまう損耗です。日差しなどの環境的要因が原因になる経年劣化は、通常損耗とは違うのです。
では、どこまでが通常損耗なのでしょうか?たとえば、壁にカレンダーや写真をかけたいときには画びょうを使用します。これは自然についた傷ではなく故意に壁に穴を開ける行為です。しかしこのような画びょうの穴は生活していく上で仕方ないものと判断され、通常損耗ととらえられます。
しかし、釘などで必要以上に穴を開けた場合や、子供が壁紙に傷をつけた場合は通常損耗とはなりません。壁下地のボードにまで届くような釘で穴を開けることは生活していく上で仕方ないとは判断されず、また親は部屋を管理する義務があるため子供いたずらであっても壁を傷つければ通常損耗というわけにはいかないのです。
どこまでが通常損耗なのかという線引きによって、退去時にトラブルが起こってしまうことがあります。あらかじめどの範囲が通常損耗なのかを確認した上で生活していくことが大切です。
原状回復費用はどっちが払う?
住居の使用により減少した価値を復旧することを原状回復といいます。国土交通省が発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・ 過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とされています。このうち、暮らしていく中で仕方なく起こる経年劣化と通常損耗は貸主の負担になります。
しかし通常損耗であっても借主に請求されることがあります。通常損耗を修繕する費用を借主が負担する必要はありませんが、通常損耗を放置しておくことで二次被害が発生した場合にはその二次被害に対する費用を支払わなければなりません。
たとえば、扉の建付けが悪くなるのは通常損耗ですが、建付けが悪くなった扉をそのまま使用していき破損させてしまった場合は修繕費用を請求されてしまいます。このように通常損耗から二次被害が発生しまう可能性があるので、修理や交換を早めにしておくことが大切です。
また、通常損耗とはいえないほど損耗が重度な場合は借主に修繕費用が請求されることがあります。とくに多いのがタバコのヤニによる壁の染みです。これは借主の管理で防げる範囲の汚れですので、修繕費用を請求されてしまいます。
これって経年劣化?自然な劣化の特徴
どこまでが経年劣化でどこからは特別損耗なのか、ボーダーラインを知っておくことで退去時のトラブルを防ぐことができます。経年劣化として挙げられる代表的なものをご紹介していきます。
壁紙の日焼け
日光に当たり壁紙は日焼けしていきます。住み始めた当初よりも壁が黄色くなってしまったとしても、日焼けによって自然に色が変わったのであればこれは経年劣化と判断されます。
また壁には知らないうちに手垢がついています。この手垢も生活する上で自然についてしまうものですので経年劣化といえます。
壁にカレンダーや写真をかけている場合、外したときに周囲の壁とカレンダーや写真があった場所とで色が異なる場合があります。周囲だけ日焼けしてしまったためカレンダーや写真の跡がついてしまったのです。特別損耗のように感じるかもしれませんが、これも通常損耗として考えられますので修繕費用を支払う必要はありません。
よく勘違いされやすいのが壁の冷蔵庫焼けです。冷蔵庫が置いてあった場所の壁は冷蔵庫焼けしていることが多いです。その部分だけ明らかに壁の色が変わってしまっているため修繕費用が必要だと思う方もいらっしゃいますが、こちらも通常損耗として扱われます。
フローリング
フローリングは長く使用することで自然とワックスが剥がれたり表面が傷んだりします。見るからに古く傷んだフローリングであっても、これらは経年劣化ですので修繕費用を支払う必要はありません。
しかし注意したいのが、家具を移動させる際についた傷やなにかものを落としてついた傷、椅子の移動によってついた傷などです。これらは経年劣化とは判断されませんので、退去時にトラブルにならないように覚えておいた方がよいでしょう。
畳の日焼け
畳は日光の影響を非常に受けやすいため、日焼けが非常に目立つ場所です。また畳の上を歩くとどうしても少しずつ傷ついていき擦り傷ができてしまいます。
しかしこのような日焼けや歩行によってついた擦り傷は経年劣化と判断されますので修繕費用は必要ありません。ただし畳についた家具移動の傷や不自然についた傷などは経年劣化にはならないため注意しましょう。
主張することが大事
住居を借りる際に支払う敷金は、特別損耗などがなければ手元へ返ってきます。しかし経年劣化を特別損耗と判断されて修繕費用を敷金から差し引かれてしまうことがあります。本来返ってくるはずのお金を取り戻せなくなってしまうことがないように、きちんと経年劣化であると主張することが大切です。
このように不動産会社へきちんと話をするためにはどの範囲が経年劣化なのかを知っておく必要があります。事前に経年劣化や通常損耗、特別損耗について知っておくことが大事です。
まとめ
暮らしていく中で住居は劣化していきます。賃貸住宅で経年劣化や通常損耗について知識がないまま退去すると、これは特別損耗ですといわれ敷金から修繕費用を差し引かれてしまうこともあり、トラブルの元となります。このような退去時のトラブルを防ぐためには、きちんと原状回復についての知識を持っておくことが大切です。
また、住居を使用する上でもどの範囲が通常損耗なのか、経年劣化なのかを知っておけば退去時の費用を減らすことができます。事前にきちんと調べ、退去時のトラブルを防ぎましょう。