賃貸住宅に長く住んでいると、「壁紙が変色してきたかも…」「テーブルの脚の跡がついちゃった」「フローリングが痛んできた」など、施設の劣化に気付いて不安になる人は多いのではないでしょうか。部屋を買うのではなく借りるために支払っている家賃・敷金には、本来こういった損耗等を修繕するための費用も含まれています。
ですが、2017年に法が改正されるまではこの点が曖昧で、大家さんや管理会社によっては敷金礼金に加え毎月の家賃、そして最後にすべての修繕費を要求されることも…。法改正により原状回復のガイドラインがクリアになった現在ですが、不当な修繕費用を請求されるケースが一切なくなったわけではありません。
どこまでがこちらの負担で、負担しなくていいのはどういったケースか。また、少しでも退去費用を抑えるために知っておきたいことは、どのようなことでしょうか。
賃貸住宅の「原状回復」の範囲って?
原状回復と一言にいっても、具体的にはどこまでやればその基準に満たされるのか、入居時の説明だけでは分かりにくかったりしますよね。物は使えば当然古びていきますし、ただそこにあるだけでも年月と共に変質していきます。部屋を大切に使っていたとしても、数か月~数年後にはどうしても入居時より古びてくるのが普通です。それでも「原状回復」の規約があるのはなぜなのでしょうか。
退去時に修繕費が発生するケースとは
基本的に、借り手側が室内で事故などを起こさず普通に生活していた場合、修繕費用は発生しません。「原状回復ガイドライン」には、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」とあります。退去時に修繕費が発生してしまうのは、その損傷が借り手の故意によってできたものであったり、借り手の雑な扱いによってできたものであった場合のみということです。
壁に穴をあけてしまった場合などは当然で、窓を開けたまま外出してしまい、吹き込んだ雨で壁紙や設備の一部が変質してしまったような場合も、修繕費が発生することになります。また、借り手が日常的に掃除を怠り、キッチンやバスルームのパッキンなどに生えたカビが取れないといった場合もNGです。自分の家じゃないから…とずさんな扱いになることを未然に防ぐ意味でも、原状回復の規約は大家さんと入居者双方に重要な存在であると言えます。
意外?家具を置いた跡のへこみ、壁紙の日焼けは負担外です
上記のケースと違い、時間の経過と共に品質・性能が劣化しておこる「経年劣化」による損傷は、原状回復の範囲には含まれません。例えば、暮らしに必要不可欠である家具を設置し、その場所の床の一部がへこむことがありますが、それは故意に傷つけたというよりも時間の経過によって床材が劣化したに過ぎないことから、借り手に修繕費を払う義務は発生しません。
同じように、日常の紫外線による壁紙の変色なども修繕費の負担義務はありません。しかし、タバコの煙によって変色させてしまった場合は負担義務が発生します。
退去時に損をしないよう、やっておきたいこと
もうすぐ部屋を引き払う予定がある、今後引越しする予定がある人は、退去時に損をしてしまわないよう気をつけておきたいことがあります。
備えは入居時から!
物件の劣化は、自分が入居する前から始まっています。古い物件である場合はもちろん、新築物件であったとしても、入居時には必ず室内をしっかりチェックし、傷や壁紙の継ぎ目、わずかな床の痛みなど、気になった場所は写真を撮っておきましょう。メールなどで管理会社に連絡して履歴を残しておくのがおすすめです。
自分が汚したものでなければ、きちんと主張する
退去時には、元からあった損傷まで修繕費を負担するはめにならないよう、入居時の写真などの証拠をもとにきちんと主張することが大切です。また、普通なら気づかないようなごく小さな傷であればあえて伝えず、管理会社の対応に任せてもよいでしょう。
納得してからサインしましょう
家具を引き払ったあとの、退去の立ち会いのときに気を付けておきたいことがあります。立ち合いの担当者が、仲介業者間の手数料を狙って不当な要求をしてくる悪質なケースが少なくありません。請求された金額が、実際の損失を修復するためだけの料金かどうか、不当に上乗せされていないか、不明瞭な点があれば質問をして納得できるまで確認しましょう。
よく分からない点や、明らかに違和感があり納得いかない点がある場合は、言われるままにサインせず保留にさせてもらった方がいいかもしれません。大きなお金が動くわけですので、大家さんなどの納得できる相手からきちんと説明があるまでは、サインを控える権利があります。家具が引き払われ部屋を明け渡してある状態ですので、サインがまだでも次月の家賃の支払い義務が発生することはありません。
できそうな場所は自分で修復!
フローリングや床の補修と聞くと難しそうに感じますが、傷を目立たなくする「補修キット」が世の中にはたくさん売られています。自己責任の上、元通りに近い状態を目指して挑戦してみる価値はありそうです。
床の修復に便利なグッズ
床の補修材は特にタイプが多く、場合によっては他の場所にも流用できます。
壁紙の修復方法
壁紙にできた大きなへこみ、ひび割れなどは素人が綺麗に直すのは難しいため、失敗してよけいにひどいことにならないようプロに頼んだ方がいいでしょう。
壁紙の修復方法
クローゼットの扉などについた傷は、数色入りのマニキュアタイプの補修材を塗るだけで目立たなくすることができます。
退去費用の相場ってどれくらい?
賃貸住宅の退去費用の相場はどれくらいなのでしょうか。施設の品質や物件の広さ、入居年数などで大きく違いが出るため、具合な金額を提示することはできませんが、原状回復のガイドラインには「1R~1K程度の間取りなら1万,5000円~2万円程度」という目安が定められているようです。これを基にすれば2LDKの物件の退去費用は3~4万円あたりが相場ということになります。
退去費用は、敷金からハウスクリーニング費用と修繕費を引いた金額
具体的に計算するなら、敷金から実際のハウスクリーニング費用と、故意で破損させてしまった場所などの修繕費を引いた金額が、基本の退去費用となります。部屋の広さや設備によりクリーニング費用は変わってきますので、概算を出したい場合はこの考え方でおおよその見当がつくのではないでしょうか。
思ったより退去費用がかかりそう…どうすればいい?
退去費用で危機感を覚えたら、自己責任でセルフ修繕にトライしてみるか、退去費用より安く請け負ってくれる業者を探してみるのはどうでしょうか。意外と良心的な価格で原状回復してくれる業者が見つかるかもしれません。
まとめ
賃貸住宅を退去する時に発生する退去費用は、「原状回復」させるための修繕費で大きく変わります。原状回復で借主側が修繕費を負担する範囲は、経年劣化による損耗は含まれず、借主側の故意による傷や雑な使用による損傷があった場合に、修繕費支払いの義務が発生します。
管理会社や仲介業者によっては、本来なら払う必要のない費用をこちらが負担させられてしまう場合もあるため、退去立ち合いの際には納得いくまで説明を受け、しっかりと内容を確認することが大切です。身に覚えのない支払いで泣き寝入りすることにならないよう、あらかじめ基本的な知識をおさえておき、いざという時は貸主側と対等に交渉できるように備えておきましょう。